1 はじめに

 

昨年6月、労働基準法などの改正を定めた「働き方改革関連法」が成立し、2019年4月1日から順次施行されることになりました。これによって、労働関係を巡って様々な制度が新設・変更されることになります。

皆様の会社では、新設・改正される制度について、十分に理解し、必要な対策を講じているでしょうか。

今回は、「働き方改革関連法」に基づく労働基準法の改正によって新たに導入される「時間外労働の上限規制」について、簡単に説明をしたいと思います。なお、以下の説明においては、改正前の労働基準法を「現行法」、改正後の労働基準法を「改正法」と略します。

 

2 現行法における「時間外労働の上限」

 

(1) 時間外労働の上限は法律で定められていません

ご存知のとおり、現行法は、原則として、1日8時間を超えた労働及び1週間40時間を超えた労働(以下「時間外労働」といいます。)を禁止としたうえで、三六協定を締結・届出した場合、例外的に時間外労働が許容されるという建前になっています。

また、三六協定の締結によって許容される時間外労働について、現行法は上限時間を定められておらず、厚生労働大臣が告示によって基準を定めています(以下「限度基準告示」といいます。)。

そして、限度基準告示では、三六協定で許容される時間外労働について、月45時間、年360時間などと上限が定められています。もっとも、特別な事情がある場合、年6ヶ月までは上限時間を超えた時間外労働ができる旨の条項(=特別条項)を三六協定に付すことも認めているうえ、特別条項における上限時間は定められていません。

すなわち、限度基準告示に従った場合であっても、特別条項付きの三六協定にすることにより、年6ヶ月までは時間外労働の上限を各企業が決めることができてしまう訳です。

(2)限度基準告示に法的拘束力はありません

ところで、限度基準告示が定める上限(月45時間、年360時間など)を超える時間外労働の時間を三六協定で定めた場合、その法的効力は認められるのでしょうか。また、そのような三六協定を提出した場合、労働基準監督所は受理するのでしょうか。

この点、そのような三六協定を無効とする見解もありますが、限度基準告示に強行的な効力(法的拘束力)はないとの見解が現在は主流です。世間一般では、「1ヶ月45時間を超える残業は法律上認められていない」との誤解が広がっているようですが、それは誤りであり、現行法において、時間外労働の上限規制は存在していないのです。そのため、限度基準告示の内容に反していようとも、三六協定の効力が否定されることはありません。 また、そのような三六協定を労基署に届け出た場合、行政指導によって是正を求められることにはなりますが(現行法36条4項)、それに応じる義務はありませんし、労基署は三六協定の受理を拒否することもできません。

 

3 改正法における「時間外労働の上限規制」

 

(1) 働き方改革の一環として上限規制が新設されました

働き方改革関連法によって労働基準法が一部改正され、時間外労働時の上限が『法律』で定められることになりました。

改正法における上限規制の概要は、原則として、時間外労働の上限を月45時間、年360時間としながらも、特別な事情がある場合、例外的に、年6ヶ月までは月45時間を超える時間外労働を認めるというものです。加えて、改正法は、特別な事情がある場合であっても、①時間外労働(休日労働を含む)は月100時間未満、②時間外労働(休日労働を含む)の複数月平均は80時間以内、③時間外労働は年720時間以内としなければならないものと定めており、この点で限度基準告示を発展させた内容となっています。

なお、①及び②は、休日労働を含む時間であることに注意しなければなりません。

(2) 各企業において上限規制の適用対象となる時期は異なります

改正法は、2019年4月1日から施行されます。

もっとも、上限規制の適用には経過措置が設けられており、上限規制が適用される三六協定は、2019年4月1日(中小企業は2020年4月1日)以降の期間のみを定めている三六協定となります。ただし、2019年4月1日(中小企業は2020年4月1日)の前後を跨ぐ期間の三六協定の場合、適用が猶予される期間は、当該協定で定められた期間の初日から起算して1年を経過する日までとされています。

したがって、各企業において上限規制の適用対象となる時期は異なることになります。

また、自動車運転業務、建設事業、医師など、一部の業務・事業については、上限規制の適用の猶予・除外がありますのでご留意ください。

 

4 企業が講じるべき「3つの対策」

 

以上のとおり、2019年4月1日以降、各企業は、順次、時間外労働の上限規制の対象となっていきます。そして、上限規制の対象になるに先立って、企業は、①労働力確保、②労務管理、③社内教育の3点について、対策を講じることが必要となります。

まず、①労働力確保ですが、各労働者に長時間労働を求めることで繁忙期の労働力を確保していたような企業の場合、月100時間未満、複数月平均80時間以内などの上限規制によって、繁忙期における労働力の確保が困難となる恐れがあります。そのため、繁忙期における各労働者の時間外労働が上限規制に抵触する可能性がある場合、ITの活用による業務の自動化、有期雇用労働者の採用などを進めることを検討することが必要です。

次に、②労務管理ですが、複数月平均80時間以内の規制によって、2ヶ月平均~6ヶ月平均のいずれにおいても時間外労働(休日労働を含む)が80時間以内となるようにしなければなりません。そのため、各労働者の過去数ヶ月間の時間外労働の時間を一元的に確認できるような労務管理体制が必要になりますし、予測される業務量に応じて時間外労働等の時間を各月に計画的に配分することにより、上限規制抵触を理由とした労働力不足を防ぐことなどが必要となります。

最後に、③社内教育ですが、企業では各部署の管理職が時間外労働の命令・承認を実施しているのが通常であるため、法務担当者及び人事担当者のみならず、時間外労働の上限規制の内容を各部署の管理職が理解し、これを遵守することが必要となります。そのため、企業は、自社が上限規制の対象になるよりも前に、管理職向けの勉強会などを開催し、時間外労働の上限規制の周知を徹底することが必要となります。

弁護士法人J&Tパートナーズ