1.会社には関係なくても発信者情報の開示に関する意見照会が来ることも

 

インターネット上で誹謗中傷をされたり著作権侵害を受けた人や会社は、侵害した人(発信者)が使ったスマホやパソコンの契約プロバイダに対して、その住所や氏名などの発信者情報の開示請求をすることができます(プロバイダ責任制限法4条1項)。 この請求を受けたプロバイダは、発信者に対し、開示してもいいかどうか、また拒否する場合の理由について意見照会をします(プロバイダ責任制限法4条2項)。

ただし、この「発信者情報」には、発信者の特定に資する情報も含まれます。

そのため、会社として誹謗中傷行為をしていないくても、例えば、従業員が会社で契約しているインターネット回線や端末を使って誹謗中傷などを行うと、会社が契約しているプロバイダから会社に対して意見照会が来ることがあるかもしれません。

 

2.意見照会への対応

 

A.開示に同意するか拒否するか

プロバイダから意見照会を受けた場合、まずは発信者情報の開示に同意するのか拒否するのかを回答する必要があります。 開示に同意すれば、プロバイダとしては発信者情報を開示することになると考えらえれますので、会社の名前や所在地が開示されることになります。

開示を拒否すれば、プロバイダは開示要件に該当するかどうか判断し、開示するか決めることになります。

可能であれば、社内調査をするなどし、発信者である従業員など誰がが分かれば、事実関係の聞き取りをして判断しましょう。事実関係に間違いがなく、本人も反省していて、早期に和解をしたいという場合であれば、相手方の調査費用を増さないよう、個人的には開示に同意して良いのではないかと思っています。

後々、損害賠償請求をされる場合には、発信者情報の開示が拒否されたことで開示請求訴訟を余儀なくされたとして、その分の弁護士費用数十万円満額が請求されてしまうおそれもあります(裁判所が認めるかどうかは判断が分かれているようです。)。

B.拒否する場合の理由

開示を拒否するのであれば、理由を詳しく書いた方が良いでしょう。

ただ、無駄なことを長々と書いても意味がありませんので、開示が認められる要件となっている、
ⅰ 権利侵害が明白
ⅱ 損害賠償請求のために必要であるなど、開示を受けることに正当な理由がある

とはいえないという点を意識して書くべきです。ここで感情的なことを書いても何のメリットもありませんので控えましょう。

権利侵害が明白とはいえないと主張する場合の例としては、

・名誉を侵害したとはいえない
・プライバシーを侵害したとはいえない
・発信した事項には公共性があり、公益目的で発信し、その内容も真実である。真実でないとしても、真実と信じることに相当の理由がある。

といったものが考えられます。もちろん、侵害されたと言われている権利によって内容は変わりますが、これらに関する具体的な事情を記載します。

開示を拒否する理由について、もし証拠を持っていれば、そのコピーなどを一緒に提出しましょう。

C.会社は関係なく従業員個人の行動であるとの回答

このように回答しても、インターネット回線や端末について契約をしている会社の情報が、プロバイダ責任制限法4条の「発信者の特定に資する情報」に該当すると考えられますので、開示が認められることになるでしょう。

D.身に覚えがないとの回答

このように回答しても、その他に端末を誰かに盗まれたことの被害届を提出しているなどの事情や資料がないのであれば、最終的に開示される可能性が高いです。

3.プロバイダが発信者情報開示を拒否した場合どうなるか

プロバイダが開示を拒否すれば、権利を侵害されたとして開示請求した人は、発信者情報開示請求訴訟を提起して裁判所の判断を受けることになります。

この訴訟は、プロバイダと権利を侵害されたと主張する人との間の訴訟になりますので、基本的には、プロバイダと契約しているに過ぎない会社が参加するものではありません。

プロバイダが、侵害情報の発信者に代わって、権利侵害が明白でないなどの主張をすることになりますので、意見照会の際に、必要な証拠も一緒に提出すると良いということになります。

その後、訴訟で発信者情報の開示が認められた場合、会社の名前や所在地が開示されるので、先方の代理人弁護士などから、発信者が誰かなどについて照会を求める通知が来ることになると考えられます。

とはいえ、従業員の誹謗中傷行為について会社が責任を負う可能性は低いでしょう。ただし、業務上の行為として誹謗中傷がなされたといえるケースでは会社が責任を負うこともあります。また、〇〇会社の従業員がインターネット上で〇〇という誹謗中傷行為をしたなどと報道などがなされると、会社のイメージダウンにつながってしまうかもしれませんので、会社の規模に応じて、日ごろからインターネットに関する注意喚起が必要な時代かもしれません。

弁護士法人J&Tパートナーズ
パートナー弁護士 村木孝太郎(ムラキ コウタロウ)