1.はじめに
職場でのセクシュアルハラスメント(以下、「セクハラ」といいます。)は、働く人の個人としての尊厳を不当に傷つける社会的に許されない行為であるとともに、働く人が能力を十分発揮することの妨げにもなります。それはまた、企業にとっても、職場秩序の乱れや業務への支障につながり、社会的評価に悪影響を与えかねない問題です。職場におけるセクハラが問題視されるようになってから既に相当の年月が経ちましたが、現在もセクハラ被害はなくなっていません。そこで、今回は、職場におけるセクハラの防止に関する事業主の義務について紹介することにいたします。
2.セクハラ防止措置を実施するための指針
職場におけるセクハラは、いったん発生すると、被害者に加え行為者も退職に至る場合があるなど双方にとって取り返しのつかない損失となることが少なくありません。被害者は事後に裁判に訴えることを躊躇せざるを得ない場合もあり、未然の防止対策が特に重要です。そこで、雇用機会均等法は、職場におけるセクハラに起因する問題に関して雇用管理上必要な措置(以下、「セクハラ防止措置」といいます。)を講じる義務を事業主に課すとともに、事業主が当該措置を実施するための指針を厚生労働大臣が定めるものとしています。すなわち、厚生労働大臣が定める指針に沿ってセクハラ防止措置を講じることが事業主の義務とされているのです。そして、当該指針においては、次のような内容の10項目の措置が定められております。
(1)事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
ⅰ 職場におけるセクシュアルハラスメントの内容・セクシュアルハラスメントがあってはならない旨の方針を明確化し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること
ⅱ セクシュアルハラスメントの行為者については、厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等の文書に規定し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること
(2) 相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
ⅲ 相談窓口をあらかじめ定めること
ⅳ 相談窓口担当者が、内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること、また、広く相談に対応すること
(3) 職場におけるセクシュアルハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
ⅴ 事実関係を迅速かつ正確に確認すること
ⅵ 事実確認ができた場合には、速やかに被害者に対する配慮の措置を適正に行うこと
ⅶ 事実確認ができた場合には、行為者に対する措置を適正に行うこと
ⅷ 再発防止に向けた措置を講ずること(事実が確認できなかった場合も同様)
(4) (1)から(3)までの措置と併せて講ずべき措置
ⅸ 相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、周知すること
ⅹ 相談したこと、事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、労働者に周知・啓発すること
3.職場におけるセクハラの法的責任
職場においてセクハラが行われた場合、当該行為を行った本人はもちろん、行為が組織的に行われていた場合や、社内の問題を放置していたなどの場合には、企業(使用者)も法的責任を問われることがあります。
多くの裁判例では、民法に基づく民事上の責任が問われており、加害者や適切な対応をしなかった管理監督者とあわせて、企業(使用者)の責任を問うものが多くなっています。また、加害者については刑法に基づく刑事上の責任が問われる場合もあります。
このようなことから、企業としては、常に、職場におけるセクハラ防止に取り組む必要があると考えられます。
この機会に、社内におけるセクハラ防止措置が上記指針に従い構築されているかについてご確認いただければと存じます。
弁護士法人J&Tパートナーズ
弁護士 李卓奎(イ タッギュ)